第43章


[06]


 あっしらは手近な丘の上に登り、それらしき影を求めた。見回して探すまでも無く、
特徴的な屋根が何重にも重なったような塔の姿――確か、スズの塔とかいったっけか――
が直ぐに見つかり、そのたもとを目で辿ると碁盤状に並んだ古風なエンジュの町並みと、
周囲を飾り立てるまるで紅蓮の炎の如く豪勢に染め上がった木々が視界へと飛び込んできた。
 その壮大な景観に、乗り気じゃなかったあっしの喉も思わず『おお』と感嘆に唸る。
写真やテレビ画面を通して見るのとじゃまるで迫力が違う。そこらのみすぼらしく
茶色にしょぼくれた木々とは比べるまでも無い、優美で色鮮やかな着物で着飾った姫さんと、
所々ほつれかけたような地味な服を着た田舎娘ぐらいの別次元の品と格の差だ。

 ――「ま、あっしゃ後者の方、地味な田舎娘も嫌いじゃねえんだけどな。
自分色に染め甲斐があるっていうかよ」
 へっへ、と笑い、ドンカラスは帽子をキザに撫でる。
「……上機嫌になってくれたのはいいが、話が逸れているぞ」
「そういやエンペルト、おめえさんの”いい人”だったあのポッタイシのお嬢さんは、
どちらかといや前者の方だったかねえ。ああいうタイプもあれはあれでまた……」
 調子に乗って口を滑らせるドンカラスをエンペルトは無言でじとりと睨め付ける。
「おー、こわ。分かりやしたよ。お堅いねえ。束の間ぐらい先の暗い話は忘れようとさせてくれても
いいじゃねえですかい。――例の幽霊騒ぎん後にトバリでエレキブルの大将達と色んな奴らも
呼び寄せて飲んだ時にゃ、おめえ、酔いと自棄に任せてあんなことしでかしたくせによぉ」
「え?」


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