第43章


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 それにあのゲス野郎――群青のヘルガーの『地の果てまで追い詰めて殺してやる』って
怨恨の言葉が頭の隅にこびり付いたまま取れなかった。奴の執念深さは筋金入りだ。底辺の存在だと
完全に見くびっていたネズミにしてやられたことで、山の如く高いプライドもずたずたに傷つけられ、
面目を晴らす為により一層執拗さに拍車がかかることだろう。まさか殆ど何も手がかりも無いまま
あっしらの後など追っては来れまいと思ってはみても、拭い去れきれない胸騒ぎがあった。
「なー、ネズミぃ。オレ、もう歩き疲れたー。おんぶしてよー」
 そんな事も露知らず、呑気に子ニューラは駄々をこねだす。余程甘やかされて育ったのか、
それとも逆に普段厳しくされている事による反動なのか、どちらにせよ何てわがままなクソガキだ。
怒鳴りつけてやろうかとあっしが考えている傍で、マフラー野郎は苛立つ風もなくやんわりと首を横に振るった。
「そうしたげたいのは山々だけれど、エンジュまで行きたいって言ったのは君自身だよ。自分の足で
もうちょっとだけ頑張ってみるんだ。その方がエンジュまで行けた時、紅葉はもっと綺麗に見えるはずだよ。
それに、俺の背中にはもう先客がいるからね」
「先客?」きょとんとして子ニューラは首を傾げた。
「ああ、まだ紹介していなかったっけ。――起きてるだろう、出ておいでピチュー」
 マフラー野郎は肩越しに自分の背中に声をかける。ぎくり、とした様子で、背を覆うように巻かれたマフラーの
不自然に膨らんだ部分が揺れ動いた。
「ほら、隠れていないで、ちゃんと挨拶するんだ」
 マフラー野郎が言うと、観念した様子で渋々とチビ助はマフラーの中から顔を覗かせる。

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