第43章


[16]


 あっしはマフラー野郎に詰め寄り、勝手に飛び出していこうとしねえように
マフラーの裾をしっかりと足で掴む。
「わざわざお前が出向いていくまでもねえ、別の救世主様のご登場だ。もういいだろ?
 見つからねえ内にさっさと行こうぜ」
 声を潜めて言いながら、あっしはぐいぐいとマフラーを手綱のように引いて連れていこうとする。
だが、幾ら力を込めても奴の体はびくともせず、人間どもの動向を窺ったままてこでも動こうとしない。
「まだだ。幾ら勇気があっても子どもだけでどうにかなる相手じゃないのは君もよく分かっているだろう」
「あのなあ、ポケモンのガキを助けるってんなら百歩も二百歩も譲って俺様もまだ納得してやる。
でもありゃ人間だ、俺様達を散々に扱き使いやがった人間サマだ。服を着た猿ポケモンにでも見えるってのか?
 わざわざ危険を冒す価値なんてまるでねえだろ」
 耳の穴を直接かっぽじってやる勢いであっしはあいつの長い耳に嘴を寄せて小声で捲くし立てる。
「なら君達は一足先に行っていてくれ。後から必ず追いつくからさ」
「どうかしてるぜ、お前」
 まるで聞く耳をもたねえ態度に、分かっていたとはいえあっしは苛立って吐き捨てるように言った。
「かもな。でも、約束したんだ」
 ぽつり、とマフラー野郎は意味深に呟く。”約束”。そういえば、ゲス犬の野郎とやりあった時にも、
こいつはそんなことを仄めかしていた気がする。こいつを執着と思えるほどに駆り立てるものの根底には
その約束とやらが深々と焼きついているようだ。

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