第43章


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 このまま身を隠し、あの癖毛のガキに団員どもが気を取られている内に安全に逃げ出すか、
それとも不意打って団員どもをのしちまうか、あっしは頭をめぐらせる。あっしらの脱走は
ジョウトの各地にいる団員どもにもとっくに伝えられているに違いねえ。下手に打って出て、
もしも討ち漏らしでもしたら追っ手にまたとない手がかりを与える羽目になっちまう。
考えてみりゃ見知らぬ、それも人間のガキがどうなったところで、あっしにはどだい関係ねえ話だ。
人間サマなんざにゃ散々道具のように扱き使われた恨みつらみはゴミ山のように積み重なっていても、
わざわざ危険を冒してまで助けてやる義理なんざ塵の一つもありゃしねえ。
この場は大人しく息を潜めて、癖毛のガキが囮になっているうちにさっさと逃げ出すのが得策だろう。
 他の奴らはどう出るつもりでいるか探ろうと、まずは隣の木に隠れているニャルマーを見やる。
奴も大体似たような結論に至っているらしく、冷然とした面持ちで事の成り行きをじっと窺っていた。
子ニューラは団員どもを気にいらなそうに影から睨みはしながらも、どう動くかはあっしら次第といった様子だ。
問題は……あっしは一番の不安要素であるマフラー野郎に目を向ける。
 例え異種族のポケモンであろうとガキとあればなりふり構わず助けにかかるあいつとはいえ、
よもや人間のガキまでを己の身を省みずに助けに行くような真似はしまいと思いたいが……。
あいつだって、人間のエゴ勝手にはさんざっぱら振り回されてきた筈だ。軍隊に飼われる生活は
きっとあっしよりもっとひでえものだったことだろう。のらりくらりと誤魔化しちゃいるが、
あいつの背中に抉り刻まれていた雷型のでっけえ傷跡が口の代わりに過酷さと凄惨さを物語っていた。



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