第43章


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「もー、おっせーぞ。オレ、待ちくたびれちゃったよ」
 あっしらに気づき、クソガキは悪びれる様子もなく逆に遅刻を責めるようにして声をかけてきた。
体力を使い切ったあっしはもう怒る気も失せ、ただただがっくりと項垂れて荒い吐息を漏らした。
「まー、いいや。それより、周り見てみろよ。やっぱ近くで見るともっとすっげーぞ、ほらほら!」
 うるさく急かされ、渋々あっしは顔を上げて見る。――「ほほう……」すれば、成る程、
周りの光景にあっしは再びの感慨の息が漏れた。
 道中は子ニューラの後を追うのにとにかく必死で気にして眺めている暇など無かったが、
間近で鮮明に見る紅葉した木々は殊更に圧巻に写った。頭上一杯は当然、地面までもが落ち葉によって
鮮やかな赤や橙や黄色に染め上がっていて、まるで熱くねえ炎の中にいるかのような非現実的な光景だった。
 子ニューラはきゃっきゃと喜びながら降り積もった落ち葉を掬い上げ、紙吹雪みたいに撒き散らす。
火の粉のように舞い落ちる葉の中、子ニューラは両手を広げ、紅葉に負けないくらい赤い瞳の目で、
木々の一本一本、葉っぱの一枚一枚まで焼き付けるように辺りを眺め回した。
「その……あの、ありがと、ここまで連れてきてくれて……」
 舞い上げた葉が落ちきると、子ニューラはふと我に返ったように、ぽつり、と小さな声で呟く。
あっしは呆気に取られた。まさかこの生意気の塊にのようなガキからこんなしおらしい態度が出てくるとは。
マフラー野郎はフッと薄く微笑み、ニャルマーは少し毒気を抜くように小さくため息を吐いた。
「ああん? なんだってぇ? よく聞こえなかったな、今のもう一度言ってみな」
 その場を包むこそばゆい沈黙を払うように、あっしはわざと意地悪く子ニューラに聞き返す。
「な、なんでもねーやい!」
 子ニューラはばつが悪そうに顔を赤くして、拾い纏めた葉っぱの塊をあっしの顔にぼふんと投げ付けた。

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