第42章


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 丁度よさそうな隠れ場所を近場に探す途中、町外れに煙突から煙の昇る小屋を見つけ、
開け放しの窓から中を覗いてみる。家主は出払っているのかひと気は無いが、
奥の窯には火が燃え盛っていた。
「炭焼き小屋みてえだな。そういやヒワダは木炭の名産地でもあったっけか。質が良いらしくて、
結構高値で売れるんだよなあ……へっへ」
 部屋の隅に転がる束ねられた木炭を見て、デルビルは舌なめずりする。
「余計な事は考えるな。今のお前に人間の金など何の意味も無いだろう」
「へいへい、分かってんよ」
 忠告する俺につまらなそうにデルビルは答えた。
「誰もいないんならさ、ちょっとあの竈の火にあたらせてもらわない? 帰ってくる気配がしたら
すぐに逃げればいいんだし」
「うむ――」
 何れにせよ、日がまだ高いうちは町中を派手に捜索するわけにはいかん。周りにひと気の殆ど無い
町外れで、更に都合よく暖かい火まで用意されているこの小屋は休憩場所には誂え向きだろう。
「では、しばらくここで休憩とする。いつ人間が戻ってくるか分からん、気は緩めすぎるなよ」
 窓を潜り抜け、俺達は小屋へと上がり込んだ。家主が戻るまでの間、勝手に厄介になるとしよう。
間借りの駄賃は、あの物欲しそうに木炭を眺めている手癖の悪そうな黒犬と、
いたずら好きの紫の幽霊もしっかりと見張って、木炭を守りきることで返すとするか……。

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