第42章


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しばらくデルビルに続いて走り続けていると、激しく身を打つ雨は徐々に疎らとなっていき、
先の木々の合間に人家らしき陰が見えてきた。あれがヒワダタウンか。
俺達は歩調を緩めて人影を探りながら、用心深く近づいていく。
 町の最端へと辿り着く頃には雨はすっかりと上がり、散りゆく雲の間からほんのりと
赤らんだ空が顔を覗かせていた。
「あー、もう。全身、びっしょびしょ!」
 ぶるぶると身を震わせてミミロップは水滴を飛ばす。
「うわ、こっちに飛ばすんじゃあない」
「あ、ごめーん。ねえ、ちょっとどこかで体乾かしてかない?」
 怒る俺に謝りながら、ミミロップは濡れて少ししぼんだ耳先の毛をタオルのように
丁寧に絞って水を切りつつ言った。
「ここは人間の領域のすぐ傍。そんな悠長なことをしている暇はあるまい。
体など放って置けば直に乾く、我慢しろ」
「まあ、毛が短めの私やアンタやデルビルと、幽霊のマージちゃんはまだいいんだろうけどさ。
問題は……あれは、ちょっと乾かしたげないとかわいそうよ」
 そう言ってミミロップが示す方を見て、俺はぎょっとする。そこに居たのは、
ずぶ濡れで白い毛並みをべったりと垂れ下がらせた細身の四足獣だった。
「アブソル……でいいのだよな? だ、大丈夫か?」
「…………うん……」
 恐る恐る声をかけると、ショックで放心した様子でアブソルはそっと頷いた。
普段の健康的にふさふさもこもことした面影はまるでない痛ましい姿だ。
「はあ、これでは仕方あるまい……。適当に場を見繕うとしよう」


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