第42章


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 また万が一ばったりと人間に鉢合わせるようなことにならぬよう、
今度はミミロップに例の他者の位置を察知することができる波動とやらを
読み取らせながら注意深く進むことにした。波動を読むのは結構疲れるから
あんまり多用はしたくないとミミロップは難色を示すが、つい先程の件もあるし、
出くわした人間と一悶着を起こしながら進むよりは幾らかましであろうと宥め賺す。
その過程で、「じゃあ、代わりにデート一回!」などとろくでもない約束を
取り付けられてしまったが……。まあ、そんな呑気な機会が運悪く巡ってくるようなことも
当分無いだろうし、知らないふりをして黙っていればその内忘れるだろう。
 殆ど整備の施されてはいない天然の洞窟は相応に歩きにくくはあるが、
リニアの地下トンネルを彷徨うように進んだ時よりは精神的にはずっと健全だ。
淡いとはいえ明かりが灯されているというのもあるが、そこら中に雑多に転がっている
ごつごつとした岩の輪郭がどこか温かみのようなものを感じさせてくれる。
人間の手により角という角を端から端まで磨きこんで削ったかのように整えられた
地下トンネルとは大違いだ。人間共にはその方が住みよいのかもしれないが、
俺にはあの潔癖なまでに凹凸一つないつるりとした壁面はひどく冷淡で不健全に映る。
物事は出来うる限り寸分の狂いも無く完璧に整えた方が良いと思いがちだが、
中には程々の乱雑さを残しておいた方が良いというものも確かに存在しているのだ。


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