第42章


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「ピカチュウ、大丈夫!? どこも火傷してない!?」
 顔を背けた先から、割り込むようにアブソルが勢いよく飛び掛り、視界一杯に白い毛が覆い被さる。
「ぶわっ、何だ突然、見ればわかるだろう。どこも怪我などしておらん!」
 毛玉から顔を上げ、俺は叫ぶ。全く、こいつら、いつもいつも俺の調子を狂わせおって……。
「おい、いつまでもじゃれてねーで、さっさと先行くぞ。騒ぎを聞きつけて他の奴らが来たらどうすんだ」
 苛々したした様子でデルビルが急かす。
「言われずとも、そのつもりだ。というわけで、離せ、アブソル」
「うん」
 渋々といった様子でアブソルは腕を離した。
 まあ、今後あの黄色帽子と行く道が交わるような機会も、きっともう無いだろう。
余計な苛立ちの種など、いつまでも抱えている必要などあるまい。……そうであってほしいものだ。
 
「そういえば、ムウマージのやつはどうした? 不気味なほどに静かにしているが」
「マージなら、隅っこでずっと何かをもぐもぐしてるけど……」 
 怪訝に思いながら俺はアブソルの指した方を見やった。
「んー、あまじょっぱい……」
 もぐもぐと何かを咀嚼しながら呟くムウマージの口の端から、ちらりとピンク色の長細い物が覗く。
 そういえば、あの団員の男が売っていた”美味しいもの”にあいつは興味を示していたな。
つまり、あの細長い物は――いや、正体を考えるのはよそう。

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