第42章


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『大丈夫、ピカチュウ?』
『ああ、大したことはない』
 気遣うミミロップに簡潔に答え、俺は黄色帽子とヒノアラシと呼ばれていた火ネズミを見据える。
 我らポケモンは強大な生物だ。俺のように何万ボルトもの電流を放つ者、
鉄をも溶かす業火を吹き出す者、岩石を容易く砕くような剛力を持つ者――
例え体の大きさが一メートルにも満たないような小さな者でさえ、人間よりも大きな力を秘めた者ばかりだ。
それ故、人間どもは我らの力を恐れて普段はあの小さなボールに押し込めて封じ、
都合よく必要になった時にだけ外に出して扱き使うのだろう。
 だというのに、この黄色帽子は一体何を考えている。
『今、巷で流行りの”連れ歩き”ってやつだな。ポケモンとの絆をより深めるために、
普段からポケモンをボールから出して触れ合おうって、どこぞの博士だかが提唱した考えだ。
まあ、俺は危なっかしくてそんなこと試そうとも思わなかったが。いつ反抗して逃げ出されたり、
寝首を掻かれるかわかったもんじゃねえしな。――おっと、怒んなよ。人間だった頃には、
お前らの言葉なんてわからなかったんだし、慎重になっても仕方ねえだろ』
 最後に付け加えるように取り繕い、デルビルは語った。
 なるほど、人間らしい今更で身勝手な流行だ。


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