第41章


[38]




「初めは後悔と文句ばっかりだったあっしも、ジョウトを駆け巡り続けている内に、
あいつとあいつらとならどこまでも逃げていける、逃げていきてえ……
いつからだったか、そんな風に変わってやした。だが、だがよぉ――」
 ふっ、とドンカラスは力なく笑む。空いたグラスの中でカラコロと揺れる氷を見つめる目はどこか遠く、愁いを帯びていた。
 エンペルトは何も言わず、そっとグラスに酒を注ぐ。
「ん、何だ。いつもだったら、そろそろ飲み過ぎだとうるせえ頃だろうに」
「今日ぐらい、いいさ」
「……へっ、ありがとよ。――どこまで話したんだっけな。ああ、そうだ、あいつを檻から解放した後だ――」

――「聞いてねえぜ、んなこと!」
 ただでさえ危なっかしい計画だというのに、更に小さいガキなんて不安定すぎる要素まで加わるなんて、無茶にも程がある。
「当然だよ、言ってないんだから」
 文句を言うあっしに、マフラー野郎は何の悪気も無さそうににこやかに返した。
 はめられた。瞬時にそう思った。だが、あっしの羽には既に盗みとった鍵束が握られ、檻は開け放たれている。
後戻りなんて出来そうにない。
「……あー、分かったよ! そのガキ共が捕まってやがるフロアまで案内すりゃいいんだろ」
 頭を抱えたい気持ちをどうにか堪えながら、あっしは言った。
「助かるよ。それと――」
 言って、そいつは檻の中で固まっている同族達を見やった。目が合った一匹が、びくりとして視線を逸らす。
「僕らはいい……。また捕まって、ひどい目に遭わされるのは嫌だ、怖いよ……」
 ぶるぶると震え、涙を滲ませながら別の一匹が言った。
「そうか……」
「端から諦めちまってる奴は放っとけ。足手纏いにしかならねえし、構っている余裕なんざねえ。行くぞ、マフラー野郎」
 自ら発した言葉の後味の悪さを吹っ切るように、あっしは檻を離れさっさと歩きだした。
「すまない、俺達は先に逃げる。鍵は開けたままにしていくよ。
君達はもう十分に大人だ。立ち向かうか、諦めるか。その覚悟は自分で決めるんだ」


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.