第41章


[39]


 あっしは誰もいないことを慎重に確認してから、一足先に通路に踏み出た。
まだあっしの裏切りはバレてはいないだろうが、持ち場を離れてうろついているところを見つかって怪しまれたら面倒だ。
物陰に潜み、疎らに行き交う団員やそのポケモン達を避けながら、あっしは目的のフロアに向かう。
 背後を見ると、あいつも少し後ろの方を同じようについてきていた。
隙を窺い影から影へ俊敏に渡るその動きに一切の躊躇も、もたつきもなく、随分こなれた様子だ。
やはりあいつは、森でのんきに暮らしていたであろう他のネズミ達とは違う。
初対面からずっとあいつには底知れない何かを感じていたが、それがより強まった。

 目的の部屋の前まで辿り着き、あっしは一旦立ち止まった。
「ここがうちのチビ助――ピチューが捕まっている場所かい? どれどれ……」
 すぐにあいつも追い付き、あっしの横からそっと部屋を覗き込む。
内部には小さめの檻が何列もずらりと積み並んでいる。今いる位置から目につく檻の中身は、全て既に空っぽだった。
「ここから見る限り、どうやら完売御礼みてえだな。ここはガキのポケモン専用の部屋なんだが、
大抵入ってきた傍からすぐに捌けていく。ガキの方が騙くらかして懐かせやすいし、
見た目も可愛らしいから人気なんだとよ。こちらとしても無理矢理攫うのが大人より容易いから、
最高の商品だと聞いてる。残念だが、お前のガキも既に――」
 話ながらあっしは横を見やる。その途端に、言い掛けた言葉が喉の奥に引っ込んじまった。
「子どもを、いつもこんなに……?」
 薄汚れた不衛生な檻の列を睨みつけ、表情険しくあいつは呟いた。
「諦めるには早い。奥から奥、隅から隅まで探してからだ。チビ助以外にまだ捕まっていたら、その子も助けていく」
 あいつは言うと、あっしが有無を言う間もなく中に踏み込んでいった。
どちらにせよ、その時のあいつの鬼気迫る様子に、あっしは何も言えやしなかったよ。


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