第41章


[34]


「――待った」
 しばらく歩いていると、マニューラは不意に赤い両耳をぴくりと反応させて立ち止まり、ロズレイドを手で制する。
「どうしたんですか?」
 怪訝に尋ねる声を「シッ」と止めさせ、マニューラは爪を構えて視線を周囲に走らせる。
ただならぬ気配に、ロズレイドも両手の花から毒針を伸ばして辺りをきょろきょろと見回した。
程なくして、前方の深い茂みががさがさと揺れる。二匹が固唾を呑んで様子を見張る中、飛び出してきたのは――
つぶらな瞳の可愛らしい顔つきをした、胴長の茶色い鼬だった。余程大急ぎで駆けてきたのか、
少し息を切らしている。
 力抜けしたようにマニューラは鼻を鳴らしてから、まごつく胴長鼬に向けて爪を振りかざし「シャー!」と鋭い威嚇の声を上げた。
胴長鼬はぎょっとして飛び上がり、元来た茂みに飛びこんで逃げて行く。
「今のは?」
「オオタチだ。大方、ネズミの残り香でも嗅ぎ付けてきたのかもな。少し前まで黄色いネズミちゃんと一緒に居たしよ」
「ええ? だとしても、なんのために?」
「聞きたいのか? 奴らがネズミを捕まえた後に、一体どんな“お持て成し”をするのか……」
 言って、マニューラは黒く笑う。 
「い、いえ、やっぱりやめておきます……」
 何となく察し、ロズレイドはそれ以上の言及を避けた。
 しかし、本当に“それ”が目的だったんだろうか。ロズレイドは先程のオオタチの様子を思い返す。
どこか焦った様子で息を切らしていて、何かを追っているというよりは逆に追われているような、
何かから逃げてきたかのようだったけれど――今更気にしても、仕方ないか。
 二匹はオオタチが飛び出してきた深い茂みへと向かい、背の高い草を手で掻き分けて踏み込んだ。
途中、草を押す手に何か粘々としたものが触れたのを感じ、ロズレイドは手元を見やる。
すると、透明でとても細い、それでいて振り解こうとしても一向に切れない、妙な糸状のものがくっ付いていた。
 これは、虫の糸――?

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