第41章


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 それは、芋虫型のポケモン等が吐き出す糸のように思われた。ハクタイの森に生息するケムッソという
赤い芋虫ポケモンが、蛹へと成長する時や天敵に襲われた際、よく似た粘着質の糸を吐き出していた姿を、
ロズレイドも昔見たことがあった。
 粘り具合からして比較的新しいものと思われるが、辺りを見てもそれらしきポケモンの気配は無い。
じっと目を凝らして糸の先を追ってみれば、先程のオオタチが通り抜けて行ったと思われる低い位置で
掻き分けられた草の隙間へと続いている。どうやらこの糸はオオタチがどこからかくっ付けてきたもののようだ。
大方、芋虫ポケモンに何かちょっかいを出して、吹き付けられたりでもしたのだろうかとロズレイドは思い至った。
それならば、慌てて見えたオオタチの様子も、芋虫ポケモンの思わぬ反撃に驚いて逃げてきたから、
とも考えられる。何せ、マニューラに少し驚かされただけで、逃げ帰って行く程にオオタチは臆病なようだった。
――何か危険な奴に追われていたのかもしれないと思ったけれど……何だか、心配して損したな。
 ロズレイドは、先を行くマニューラを見やる。その背からは何やらまた少し張り詰めた雰囲気が感じられ、
わざわざこんな些細な糸如きの事で呼び止めたら、怒られてしまいそうだ。ロズレイドは黙って手から
糸を振り払おうとし、しばらく苛々と悪戦苦闘した後、もう諦めてその内自然と切れるまで放っておくことにした。

 それにしても、マニューラはどこに向かっているのか。邪魔な背の高い草に覆われた地帯をようやく抜けて、
ロズレイドは方位磁石と地図を取り出し大まかな足取りを調べてみることにした。
今マニューラが向かっているのは北東方向。このまま森を抜ければ、キキョウシティの東にある三十一番道路
辺りに出るのではないだろうか。もしもそこから更に北東に行くのであれば、その先にあるのはチョウジタウン
という集落、その東にある四十四番道路、そのまた東にはシロガネ山から連なる山脈があり、中腹辺りに
フスベシティという山里があるようだ。


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