第41章


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「――おい、起きな」
 まどろみをたゆたう意識に出し抜けに声が触れ、ロズレイドはハッとして目を開ける。
「なんだ、意外とあっさり起きたな。こっちはどうやって叩き起こしてやろうか、色々考えてたってのによ」
 その眼前には、にっと笑うマニューラの顔があった。
「あ……すみません、ついうとうとしていたようで」
 謝りながらロズレイドは慌てて起き上がる。どうやら座り込んだままいつの間にか寝てしまっていたようだ。
もしかしたらそのまま置いていかれてしまう可能性もあったというのに、なんと迂闊だったのだろうか。
ロズレイドは自責と、安堵の念が籠もった小さな息をそっと漏らす。
「しっかりしろよな。そろそろ出るぞ。この森にゃアブねー奴だって棲んでんだ。オレならまだしも、
オメーみてえなのがいつまでもグースカのんきに寝てたら、あっと言う間にとっ捕まってサラダにされちまうぞ、ヒャハハ」
 冗談めいてマニューラは陽気に笑ってみせる。
「はは、そうですね。くれぐれも気をつけますよ」
 ロズレイドは何気なく笑い返しながら、そっとマニューラの様子を窺った。
一見すると、すっかりいつものマニューラへと戻り、眠りにつく前の不穏な態度などまるで嘘か、
あるいは寝際に寝ぼけて見た幻だったのかと思ってしまいそうなほどだった。
しかし、その黒い左腕には依然として煤けた布切れがしっかりと大切そうに巻かれている。
 誰かとの思い出の品なのだろうか。ただの布への執着にしては、ただならぬものを感じさせた。
いずれにせよ、他者がずけずけと立ち入っていいような事ではないとは、容易に想像できる。
いつか自分から話してくれる気になる時が来るまで、今はただ静かに見守ろう。
ロズレイドは問い詰めたい気持ちをぐっと堪え、胸の奥底に押し込めた。
「なにいつまでもボーっとしてんだ。置いてくぞ」
 ぼんやり考え込むように佇むロズレイドにマニューラは言い残し、さっさと先を歩いていく。
「っと、待ってください」
 我に返ってロズレイドはマニューラの後を追った。

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