第41章


[23]


 ここで少しでも怯んだり言いあぐねる様なら、もう話はお仕舞いだ。あっしはここで踵を返し、
いつもの見回りに戻り、それを終えたらまた明日も同じだ。その内このスカしたマフラー野郎は売っ払われるかして、
変わらない毎日があっしがくたばるまで続く。
 ……嫌だ。思えば思うほど、嫌で嫌でしょうがなくなっていた。今までは、言い切れないほどに不満はありながらも、
生きているだけでもありがてぇ事なんだと思って、目を背けるようにしてきた。
だが、こいつのせいでまざまざと向き合わされちまった。自分の生きてきた日々、いや、生かされてきた日々は、
どれだけ最低でクソッタレか。一度気付いてしまったら、もう戻ろうとしても戻れやしない。
このまま後悔と心の呵責に耐えることなんて出来ず、体より先に頭がイカれ果てちまうだろう。
 どうか、違う明日をくれ。生かされる、じゃあなく、生きているんだと思える日々をくれ。そいつを覗くあっしの顔は、
脅しかけるものから縋るような表情に変わっていたかもしれねえ。
 そんなあっしを見て、そいつは当然だろうと言いたげに薄く微笑んだ、気がした。
「ああ。この場所は地下にあるんだよね? どこかじめじめしてて窓がどこにも見つからないし、何よりあの大きな換気口」
 そいつは天井近くの壁に開けられた網格子付きの四角い換気口を示す。
「あの中を潜って外まで行こうってのか? 確かに俺様とてめえの体格なら潜り込むのは容易だろうが、
残念だったな。中にゃしっかりとセンサーが取り付けられてんのさ。すぐにバレて出口で待ち構えられて、
とっ捕まるだけだ」
「うん、そのくらいの警備はあって当然と覚悟しているよ。まあ、最後まで落ち着いて聞いてくれ。
ここに運ばれてくる途中、檻に被せられた覆いの僅かな隙間から外を窺っていたんだけど、
どうやらここは元々アジトとして作られた場所じゃあなくて、組織とは関係ない倉庫の一画を
間借りしているだけに過ぎないように見えるんだけど、どうかな?
途中で見た山積みのダンボール箱群に、どれも人間の文字でたぶん『コガネ百貨店』って書かれているのが見えた。
その百貨店と手を組んでいるとも考えたんだけれど、すれ違った普通の従業員らしき人達は怪訝な顔をして
俺達の入っている積荷を見ていたから、それにしては変だと思ってね」



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.