第41章


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 その自信が何を根拠としているのか、全くもって分からなかった。何せそいつの姿といったら、
ヤミカラスのあっしよりも小さく、鋭い爪も牙も無ければ、短い黄色い毛に覆われた丸っこい体と、
饅頭みたいに赤くて丸い頬はちょいと嘴の先で突いてやっただけで簡単に穴が開いてしまいそうだ。
お世辞にも強そうになんて見えやしない。

――「おっと、ボスにはあっしがこんなこと言ってたなんてチクらねえでおくんなせえよ。
一応別の奴の事とはいえ、同じ種族でさぁ。機嫌損ねられたら厄介だ」
 ドンカラスは急に思い立ったように取り繕う。
「へぇ。さて、どうしようかな。ああ、そういえばドン、書庫の一番隅にある本棚の裏に羊羹を隠しているな?
 見つけた時は黙ってそっとしておいたけれど、高級そうな箱に入っていて美味しそうだったなぁ、いいなぁ」
 エンペルトは悪戯っぽくニヤついた。
「うっ……勘弁してくだせえよ……」
「はは、冗談だ。僕だってボスの不機嫌のとばっちりは受けたくないからな。続けてくれ」――
 
 ただ自分が檻から出たいが為だけの妄言だ。そう切って捨てるのは簡単だ。だが、そうできない、
そうさせない何かがあった。
「……おい、マフラー野郎」
 威圧するように、あっしは眉間に皺を寄せそいつの顔を睨み込んだ。
「ん、協力してくれる気になってくれたのかい? あと、俺の名前はマフラー野郎じゃなくて、ピカ――」
「てめえの名前なんざどうでもいいんだよ。そこまで自信満々に言い張れるなら、
何か明確な脱出プランがありやがるんだろうな、んん?」


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