第41章


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 突然、何を言ってやがるんだ、こいつは。今日初めて会った、それも自分を捕らえた憎い奴らの仲間である奴に対して、まるで友人に簡単な頼みごとをするみてえな気軽な物言いだ。
そいつのあまりに己の立場を理解していないような言葉にあっしは心底呆れ返った。
「出来るわけねぇだろ、そんなこと」小馬鹿にして鼻で笑い飛ばしてやると、「だろうなぁ」とそいつも気さくに笑い返した。
「……おめえ、今、自分がどんな立場で、どんな状況にいるのか分かってんのか?」

 絶望的な状況だというのに、そいつのその飄々とした気楽な態度に、日頃の鬱憤が溜まっていたのもあって、
あっしはどんどん腹が立っていった。
「分かっているさ。君が看守で、俺が囚人。このまま大人しくここに居たら、どこかに売り飛ばされるか、あるいは殺されるか、だろうね。だから出してくれって君に頼んでいるんだけど」
「そんな頼み、はいそうですかと聞くはずがねえだろうが」
「どうして?」
「てめえみたいなのを見張って逃がさないようにするのが、俺様の言いつけられている仕事だ」
「へえ、好きでこんなかび臭くてみすぼらしい場所で、言われるままひどい仕事をやっているのか。
ま、自身がそれで満足しているなら、俺から他に言うことは無いけれど」

 そいつのその言葉は、あっしの心に深く突き刺さった気がした。
「そんな分けねえだろうが! 俺様だってこんな掃き溜めみてえな場所で、いけ好かない事を続けるなんてごめんだ。
だがよ、選択肢なんて、俺様には最初からありゃしねえ。俺様はここを仕切る黒ずくめのクソッタレ人間共に、都合のいい道具として使われるためだけに生まれてきたのさ。逆らえば、始末されるだけだ」

 気付けば、溜め込んでいたものを全て吐き出すようにあっそはそいつに叫んでた。
「だったら、君も逃げればいい」
「……出来るわけねぇだろ、そんなこと。奴らは自分達の悪事の尻尾を掴まれねえよう、ポケモンの脱走をゆるさねえ。
例え運良くここから出ることが出来ても、追っ手を放って確実に始末しにくる」

 俯いて力なく言い返し、悔しさにひびが入りそうな程に嘴を噛み締めていると、
「絶対に逃げ切れる。俺と協力さえすれば」

 そいつは、確固たる自信を持って言い切りやがった。見上げると、その目には力強い光が戻っていた。



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