第41章


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「ピカチュウ族――僕らのボスと同じ種族だな」
 片眉を上げてエンペルトは訝しげに呟く。
「ああ、あっしはどうも昔からあの種族にゃ縁があるようで。……話を続けやすぜ」

 ――カビ臭くて薄暗い倉庫にひっそりと保管された商品の見張りは、殆どあっしの日課だった。
毎日毎日、得体の知れない危なそうな薬や、どこか安っぽくて胡散臭い道具、小汚い檻にぶち込まれたポケモン共の辛気臭い顔を眺めて回るのさ、想像しただけで心が淀み腐りそうな素敵な見学ツアーだ。

 そんなクソッタレた日々の中で唯一の楽しみと辛うじて言えるのは、檻の中の哀れなポケモン共に声を掛けて回ることぐらいだった。
どいつもこいつも、あっしを恨み辛み口汚く罵るか、怯えきって震えているか、あるいはもうぴくりとも動かなくなっているか、のどれかだったな。

 救いようのねえ掃き溜めに、とある日から二日、三日に渡って、合計で十匹近くの黄色いネズミ達が仕入れられてきた。何でも、カントーのトキワの森で密漁してきた奴らで、ジョウトでは非常に珍しく、人間達の間では結構な高値で取引されているそうだ。
そんな風に珍しいポケモンが捕らえられてくるのはいつものことで、別に珍しいことじゃあ無かった。
あっしはいつものように見張りの暇つぶしがてら、そのピカチュウだかぺカチュウだかいう奴らに接触してみることにした。檻の格子の隙間から見えるのは、つまらねえいつもの反応だ。
皆一様にくたばった魚みてえな目をして、ただただ絶望に暮れている。

 その中でただの一匹、様子の違う奴が目に付いた。首に煤けたスカーフだかマフラーだかを巻いた、優男風の奴だ。だが、その眼に宿る光は研ぎ澄まされたように鋭く、注意深く倉庫内を見回してやがった。
そいつはあっしに気付くと、わざとらしくきょとんとした表情を見せて鋭い眼光を押し隠した後、人懐っこくにこやかに微笑んでこう言い放った。
「やぁ、いいところに来てくれた。恐縮だけど、何も言わず大人しくここから出してくれないかな?」


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