第41章


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 後ろで小煩くがなりたてる音を気にも留めていないとでも言う風に背で受け流しながら、マニューラは一行のもとを離れていく。寧ろ良い追い風になって良かったぐらいだ。
心の中で言い聞かせ、マニューラは自虐めいて一匹せせら笑う。
短い間ながらも奴との旅は、いつかあった日々を想わせる奇妙な懐かしさと、それに伴なって微かな温かみを覚えさせられた。切っ掛けがなければ、危うくいつまでもそのぬるま湯にぐずぐずと漬かり込んでいてしまったかもしれない。
だが、己が追う仇敵はそんな生半可な覚悟で挑めるような相手ではない。
いざ対峙した時、向ける刃に一点でも錆びや曇りがあってはならないのだ。
 マニューラは不意に立ち止まって、腰に下げた簡素な革の巾着袋からぼろぼろな布の切れ端をそっと取り出し、両手で包み込むようにぎゅっと握り締める。
 いくら想ったところで、もうあの日々は戻らない。
 ぎり、と歯を噛み鳴らし、決意を込めるように、何かを押し込めるように、マニューラは切れ端を左腕に縛り付けた。
 そして、オレも――。
 再びマニューラは歩みだす。その足取りから微かな迷いは消え失せ、一歩一歩地を踏みしめる度、心身が暗く冷徹に研ぎ澄まされていくようだった。

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