第40章


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 ぎくりとして俺は咄嗟に手を引く。一体なんだ、まさか生きた魚か何かでも入っているのか?
 直後、蓋は微かに開き、その暗い隙間から赤く輝く両目が覗いた。
「クク……積荷を齧ろうとする泥棒ネズミちゃん見ーっけ」けらけらと樽は静かに嘲笑う。
 何奴ッ――叫ぶより速く、鋭い鉤爪の生えた手が樽の奥から伸びて俺の口元を掴んで塞ぎ、
そのまま俺はあっという間に樽の中へと強引に引きずり込まれてしまった。
もがこうとしても手の主は暗闇の中で俺を逃がすまいとしっかりと両腕で押さえ込む。
何たる油断。まさか樽の中にこんな曲者が潜むとは。だが、俺の体に密着するなど自殺行為に等しい。
隙を見て思い切り放電を見舞ってやろうと、俺は気付かれぬよう黙ってそっと電気を蓄えた。
「もう少し沖に出るまで大人しくしてな。さもねーと新鮮なネズミの冷凍にしちまうぞ、ヒャハ」
 冷ややかな吐息とともに耳元に囁く聞き覚えのある声、この笑い方。
すぐに樽の中身の正体に気付き、俺は充電を一旦止めた。
「マニューラ……か?なぜお前がここに――」
 言い掛けて俺はハッとし、「”ピカチュウの”?」すかさず尋ねた。
「イカれた”人生”ってか。ヘッ、くだらねー。コピーがもう攻めてきたとでも思ったかよ」
 マニューラはあっさりと答え、せせら笑うように言った。
「う、む……。だが、こんな紛らわしい密航者のような真似をして、一体どういうつもりだ。
カントーへ同行したければ堂々と言えばよかろうに」
「ふん、言っても無駄さ。あのクソカラスがオレをカントーには行かせようとしねーからな」
 そうでもなかったら誰が好き好んでこんな薄汚ない樽の中にこそこそと隠れるか、マニューラは舌打つ。
 
「ピカチュウー?どこ行ったの、ピカチュウー!」
 樽の外から、俺を探すミミロップの声が聞こえてくる。
「何にせよ、そろそろ離してもらおうか。いつまでも俺の姿が見えなければいらぬ騒ぎになるぞ」



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