第40章


[34] 



「それじゃあボス、姐さん方、道中くれぐれもお気をつけて。シンオウの護りはあっしらに任せてくだせえ」
 ホエルオーに乗り込んだ俺達に、ドンカラスは礼をする。
「いつも済まぬな」
「なあに、留守を護るのも重要な仕事でさぁ。帰れる場所ってぇのは、何より大事なもんですからね。
ま、援軍がいるときゃいつでも使いを寄越してくだせえよ。どこへでも駆けつけまさぁ」
「……感謝する」
 へっ、とドンカラスは少し照れくさそうに帽子を直す仕草をした。
「じゃーもうさっさと出るぞ。出航だ、野郎共!」
「アイアイサー!」
 フローゼルの掛け声にブイゼル達が一斉に呼応し、ホエルオーは汽笛のように大きな咆哮をあげて
二対の胸鰭でゆっくりと水を漕ぎ出し、少しずつ着実に岸を離れていく。
岸辺に並ぶシンオウ勢が手を振って俺達を見送る。端からドンカラスにエンペルト、ビッパ、エレキブル達に、
ニューラ達とマニューラ――んん?何故だろう、その黒い姿に妙な違和感を感じる。
いやに顔つきがいつもよりシンプルというか、全体的な輪郭もどこかぷるぷるとブレている様な……気のせいか。
 陸地も遠く離れ、ホエルオーは尾鰭を豪快に上下させどんどんと速度を上げて泳ぎだす。
さて、これからそれなりに長い船旅になることだろう。食糧や水は幸いドンカラス達がたっぷりとホエルオーの背に積み込んでくれた。
今のところ心配するのは海に棲むポケモンの襲撃――それもホエルオーの巨体に襲いかかれるものなど早々いやしないだろう――と、
後はホエルオーの上からうっかり足を滑らせて落ちてしまわないように気をつけるくらいだ。
 早速だが少しばかり食糧でもお先に拝借しようか。朝から旅立つ準備に追われ、何も口にしていない気がする。
そう思って俺は他の者達が景色に気を取られているうちに、こっそりと積荷の山が縛り付けられた後部に向かい、樽の一つに手をかけようとすると、ガタガタ――とその蓋が独りでに揺れ動いた。



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.