第40章


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 配下達がバタバタと旅支度に忙しなく駆けずり回る中、俺も洋館の一室で自身の道具袋の整理をしていた。
乾かした果物やパンの切れ端等の軽くて腐りにくそうな食糧、水筒代わりの小瓶、薬効の有る様々な木の実、傷薬、包帯に、後は……どんどんと詰め込んでいく度に袋はずしりと重くなり、心には“うずうず”としたものが満たされていった。
 これから行くのは気楽なピクニックではない。そんなこと、分かりきっている。
どこに敵が潜み、罠を仕掛けて待ち構えているかも知れない危険な追跡の旅だ。気は抜けない。
だが、どんなに己に言い聞かせて戒めようとも、この言いようの無い“うずうず”は、海底火山の火口から湧き上がる泡のごとく心底からぼこぼこ溢れてきた。
 やれやれ、参ったものだ。危険と野望一杯の長旅が続く中でいつの間にか培われたものなのか、それとも元々持ち合わせていた性分が開花してしまったものなのかは分からないが、俺もほとほと旅というものが好きになってしまっているらしい。支度だけでこの有様だ。
 ――まるで子どもだな。
俺はきゃいきゃいとはしゃぎ合いながら準備するアブソルとムウマージを横目で見やり、自嘲を込めて苦笑した。
こんなことではいずれ王座についた後も、玉座に安穏と留まっていられるのか怪しいものだ。
……そんな心配をするのは、今回の件が無事に決着することが出来てからか。

 粗方必要な物を道具袋に詰め終って口を閉めようとしていると、部屋の外から誰かが口論するような声が聞こえてくる。
声色からしてドンカラスとマニューラだろうか。まあ、あやつらの他愛無い諍いなど日常茶飯事と聞いている。
挨拶代わりだとか、犬も食わない何とやらだとかで、放って置いても害は無いらしい。
気にしないようにしてマントの背中裏に道具袋を取り付けていると、程なくしてマニューラが何やら悪態を吐き捨てて去っていき、言い争いはとりあえず終結したようだ。がつん、と壁を蹴りつけるような音が響いた少し後、
「準備は出来やしたか?必要そうなもんは大方ホエルオーに積み込みやした。もういつでも出せやすぜ」
苛立ちを押し隠した様子のドンカラスが俺達の部屋に顔を覗かせ、言った。


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