第40章


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 予感は常に晴れない暗雲のように心の片隅にあった。あの強大な念動力を持つミュウツーが、洞窟の崩落だけでどうにかなるのか、と。
「奴らは、今どこにいるのだ?」
 沸き立つ震えを堪え、俺は口を動かす。
「さあてな。件のお前達との争いに気を取られ、見失ってからはそのままだ。
……もっとも、今からでも探ろうと思えば、探ることは出来よう。しかし、――」
「今すぐ教えろ」
 勿体ぶった様子でこちらを流し見る態度に苛立ち、思わず食いかかるように俺は訊く。
キュウコンは不愉快そうに片眉を上げた。
「千里眼は神の領域の力ぞ。あれだけの大見得を切ったそばから、もう神に頼ろうというのか?
 その震えは何だ。よもや帝王となろうというものが、たかが人間の作ったものにまだ怯えているのではあるまいな」
 はっとして、俺は掴みかかっていた銀色の胸元から手を放した。
「馬鹿者、これは武者震いだ。奴らとは自らの力でけりをつけねばと思っていた。
生きていることを事前に知れただけで十分。これ以上、お前の力など借りるつもりは無い。」
 跳ね除けるように俺は言い放つ。
「おお、そうかそうか。これはうっかり早とちりしてしまった。まあ、奴の異質な姿は隠れ通すにはいささか目立つ。
お前のカントーの配下が余程の無能で無ければ、何かしらの手がかりを得ている頃合いやも知れぬな。
……言いたいことはいった。これから世界がどちらに転ぼうと、もう私は知らぬこと。
たとえ強者だけの世になろうとも、私であれば気にもかけず歩けよう」
 ふふん、と憎らしく冷笑を投げかけ、銀狐は悠々と部屋の角の暗がりへと歩いていく。


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