第40章


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「もう行くのか?俺はお前達を追い出させる程、不義理でも不人情でもない。別に何も力を貸さずとも、しばらく洋館に宿を貸しても良いのだぞ?」
「正体を明かしてしまった化生は、密やかに姿を消すのがおとぎ話の常。
それに、長居をしてはいらぬ嫉妬にかられてしまうやもしれませんわ。
蛇の絡む嫉妬は古来より恐ろし。どうか引き止めないで下さいまし」
「……そうか」
「いやですわねぇ、永劫の別れとも限りませんのに湿っぽい。空間は無形にして自在。
いつかまた、必然か、偶然か、分かれた道が不意に繋がり交わることもありましょう。その時まで――」
 優しい微笑みを残し、ミロカロスは空間の狭間に飛び込んで去った。
「……忘れぬ」
 そっとボーマンダは俺に呟き、瞬きの間も無く忽然と巨体は消え去る。
 部屋には俺とアブソル、それとキュウコンだけが残っていた。
「お前は残るのか?……まあ、別に構わぬが」
「すぐに行く。だが、最後に一つ、助言をやろうと思うてな。手出し無用を誓った身の上として、少々公正さを欠くことになるが、お前には借りがある」
「……何だ」
 怪訝に思い、俺は尋ねる。返ってくる答えは見当もつかぬはずなのに、どういうわけか良くない胸騒ぎがし始めていた。
「”奴ら”は生きている」
 キュウコンの言葉が耳に届いた瞬間、俺は胸騒ぎの理由を理解し、総毛立つ。
「そうだ。あの人工ポケモン――ミュウツーとお前達のコピー……奴らもあの崩落を逃れ、今も確実に現世に生き長らえている。弱者を淘汰し強者だけの世界を創る、その狂気の野望はそのままにな」



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