第39章


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 渦はそのまま地に滲み込んで消え去り、後にはすり鉢状の大穴だけが残された。
「退いたか……」
 呟いて、パルキアはふらりと頭を床に降ろす。駆け寄ると、パルキアは苦しげな息遣いをしながらこちらを見上げた。
「ご無事で……。これで少しは、時間が稼げるでしょう」
「大丈夫なのか?」
「はい。主を完全に呼び覚ますには、あなたの腕輪と――」
「違う、今はまずお前の傷のことだ!待っていろ、たしか傷薬の残りがまだ……」
 胴を刺し貫かれたのだ、幾ら神の化身と言えど相当な深手のはず。
マントの裏地の道具袋をかき回すように探る俺を、きょとんとした目でパルキアは見つめた後、可笑しげに――どこか自虐的に、小さく喉を鳴らした。
「この程度で消え去れれば、どんなに楽なことでしょうか」
 怪訝に思って見つめる俺を尻目に、パルキアはゆっくりと起き上がった。気付けば弱々しかった息も、落ち着いたものに戻っている。
「不覚でした。奴から受ける傷は少々厄介でして。ひとまず、お気遣いに感謝いたします」
「あ、ああ」
 大した回復力だ。自分の無力さをますます思い知らされた気がして、愕然とする。
「私はギラティナを止めに行かねばなりません。……あなたはどうなさいますか?」
 パルキアは見極めるようにじっと俺の顔を見た。
 アブソルのことは助けたい。だが、俺などが行ってなんの役に立てる?寧ろパルキアにとって守らねばならぬ対象が増えるばかりで、足手纏いにすらなるんじゃあないのか。
 俺を見つめるパルキアの瞳に、失望と悲しみが宿る。

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