第39章


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「飲まれないで。あなたはそんなに弱くなかったはずだ、ピカチュ――くッ……」
 パルキアの胴を、一本の黒き尾が光を突き破って貫いた。壁が儚く霧散したのを見届けると、狐の影は素早く横を駆け抜け、祭壇に飛び乗る。
「これで世界は救われる……。私が護らなければならぬのだ」

 ギラティナが鼻先で宝玉にそっと触れると、宝玉の表面から光が消えうせ、内部から今まで見たどんな黒より濃い常闇が溢れ出した。
狐の影は溢れる闇に飛び込んで同化し、祭壇ごと地まで伸びた闇に引きずり込んでいく。祭壇を飲み込み終えると、闇は排水溝に流れ込む水のごとく中心に渦を巻きながら縮まっていった。全てが深遠に流れ出ようとした間際、何も出来ず立ち尽くす俺に向かって、渦の中心から一本の手のような触手が伸びる。
 駄目だ。最早、俺は避けることすらもままならない……。
 諦め、捕られられようとした寸前、黒い手がぼたりと斬れ落ちた。落ちた手はしばらくびたびたとのた打ち回った後、白銀の炎に包まれて灰になった。
「させる……もの、か」
 地に伏していたパルキアが首を持ち上げ、虫の息を吐きながら言葉を紡いだ。


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