第39章


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 心に大きな動揺が走る。俺は真偽を問う眼差しをギラティナへと向けた。真っ黒に塗り潰された狐の面は黙して何も語らない。その沈黙が否定しがたい事実なのだということを悟らせた。

 なんと迂闊で軽率だったのだろうか。ギラティナがアルセウスを目覚めさせると言った時、真の目的を聞いた時、隠し通していた事への憤りと反発を抱く反面で、頭の片隅にギラティナに同調している自分も僅かながら存在してしまっていた。
アルセウスが目覚めれば世界が安定し、異常の無い平静が訪れるならそれは何よりではないか、と。
――アルセウスが目覚めれば、仮の存在であるアブソルがどうなってしまうのかなど考えもせずに。俺は己に嫌悪した。

 だが、しかし、また異常が、コピー共のような異質で強力な者達が現れたら、俺は勝てるのか?この上なく憎らしく、同じ姿をしながら俺のすべてを上回る者。自身の根底から否定されるような劣等感を容赦なく刻み込んでいった。
もうあんな思いはごめんだ。……怖い、怖いのだ。奴らに感じている強烈な拒絶感の正体は、恐れだ。

「見よ、パルキア。あの怯え竦む姿を。奴が世界の言葉を代弁する生き証だというのなら、あれが真の答えだ。
……怖かろう、重かろう。まだお前達だけで背負うには重荷が過ぎるわ。だが、案ずるな。直ぐにその役目、私が代わろう」
 ギラティナの言葉が優しく甘く響く。この俺が、怯え果てている――くそッ。
 斬られていた尾が再構築を始め、狐の足元に広がる暗闇から揺れ踊りながら伸び上がっていく。白金の玉が離れていながらも、少しずつ力を与えているのだろう。数本がかりで光の壁へ尾を突き立てると、忽ち形勢は膠着状態まで押し返された。


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