第39章


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「世界は我らの管理など必要としていない。そう判断されたからこそ主は眠りにつかれたのです」
「なんと一方的な断定か!事実、世界は異常をきたしている。貴様も気づいているはずだ。存在しえなかったもの、起こりえなかったものが既に現れている」
「異常は我らの緊縛から解かれた世界が見出した新たな可能性、成長の過程。世界と、世界に生きる者達が自ら取捨選択し、乗り越えていくべきものです」
「我らの手なくして乗り越えていけるような力があるものか。今の異変は始まりに過ぎない。看過しておけば混沌に没した末、破滅に行き着くは明白よ」
 二体の間で爆ぜる火花が尚一層激しく迸り、床を鋭く抉って破片を巻き上げた。互角に見えていた力の鬩ぎ合いも、やがて既に神体の制御に大きく力を消費していたギラティナが少しずつ押されていく。
「……何をしている、ピカチュウ。宝玉を取り戻せ。世界の危機に二度立ち会ったお前であれば、何が正しいか選択できよう!」
 ギラティナの世界への思いは純粋なものなのだろう。だが、それ故にどこか行過ぎたものを感じるのだ。
「お待ちなさい!その二度の危機を食い止める大きな切っ掛けとなったのがピカチュウ、あなただ。何の特別な力もない、ただのちっぽけなネズミであるあなたが、二度。神を、神ですら手を焼いた相手を止めた」
 パルキアの言葉が、迷う俺の足を止める。
「最早、世界には我ら神々の手などいらぬ、自身の力だけで歩んでいける。あなたは生き証といえるでしょう。あなたの存在が、主がお考えを変えられる一番の理由となったのです。そのあなたが主の信頼を裏切るのですか?それに、無理に主を呼び起こそうなどとすれば、アブソルとしての記憶は完全に消え失せてしまうかもしれないのですよ……?」


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