第39章


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 日陰に足を踏み入れると、一瞬水面のように広がっている影がさざめいた。
直後、黒く濃い染みが手や足からどろどろと伝り登って全身に行き渡っていく。
これで姿は隠されたはずだが。俺は後ろを振り返る。
パルキアは急に敵の姿を見失い、少し困惑した様子で立ち止まった。
 どうにか奴の目にも通じたようだ。安堵しかけたのも束の間、パルキアは唸り声を上げてその両肩に埋め込まれている宝石のような器官からまばゆい光を放つ。清浄で潔癖な光は日陰を瞬時に照らし、俺の体を包んでいた影もごっそりと体から剥がれ落ちた。
 隠れていた獲物の姿を見つけ、パルキアは大きく咆哮を上げる。
よくも手こずらせてくれたなと言いたげに目を血走らせ、これからどう甚振ってやろうかと楽しみにしているような足取りでゆっくりとこちらに向かってくる。
 いくら逃げようと思っても、疲労か絶望か、あるいはその両方によって最早足は竦むばかりで言うことを聞かない。ここまでかと諦めかけた俺の目に、ちらりと腕輪の姿が映る。
 ……立ち向かうか。例え悪あがきでも、何もしないでやられるよりはいい。
心を一度構えてしまえば不思議と先程まで破裂しそうに鳴っていた鼓動も、荒れ果てた息も少しはましになった気がした。
最後にどう抵抗してやろうか。多少冷静さが戻った頭であれこれと考える内、ギラティナから受け取った剣の幽霊の事をようやく思い出す。


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