第39章


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 低く唸るギラティナの声にはっきりと焦燥が感じ取れた。
 奴はアルセウスの忠実な臣下のはず。どうしてこそこそと逃れる必要があろうか。
浮かんだ疑問をギラティナに問いかける間もなく巨体は目の前へと降り立ち、その衝撃で津波のように巻き上がった砂が俺に覆い被さっていた。
 咳き込みながら砂から這い出て、立ち塞がっているパルキアを見上げる。
俺の姿をしっかりと確認すれば襲う事はないはずだ。我が目的は奴の主であるアルセウスを助けること。
言わば味方なのだから。だが、俺を見下ろす奴の眼光は、縄張りを汚された野獣のような荒々しい敵意に満ちて赤く爛々と燃え滾っていた。
――魂の無い神体は理性無き獣と同じ。
出発前に聞かされていたギラティナの話が頭を過ぎる。
 『そやつの目の前で一瞬も立ち止まるな!』
 ギラティナが叫ぶ。大きく掲げられたパルキアの前足が、今にもこちらへ振り下ろされようとしていた。
咄嗟に横へと転げ、鋭い爪の生えた巨大な手を寸前で避ける。
その瞬間、つい先程まで俺が立っていた砂地に、尖ったもので撫で付けたような細い直線の跡がついた。

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