第39章


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 轡を取り去った途端、どこに余力を隠し持っていたのか、耳をつんざく凄まじい大声がサクラビスの口から飛び出す。
黙らせろ、とギラティナが言うより早く、精根尽き果てたサクラビスは腹を上に向けて力無くぷかりと浮いた。
しん、と不気味な静寂が辺りを包む。体に残る力の全てを捧げ、何かを呼び寄せているような断末魔の叫び声だった。
『今すぐその場を離れよ。出来うるだけ遠く、全力でだ』
 今までに無い焦りが垣間見える声色でギラティナは俺の頭の中に指示を飛ばす。
――だが、もう間に合わなかった。

 突如として、空間を揺さぶるような巨獣の咆哮によく似た轟音が神殿の方から響き渡った。
直後、何か巨大な物体が神殿を飛び立つ。物体は翼のようなものを大きく広げ、明確にこちらの方を目指して向かってきていた。
 大気が、空間そのものがびりびりと震える。俺の体も毛を逆立たせて震え上がっていた。
乳白色に輝くあの姿は、この距離からでも感じ取れる全身から漲る強大な力は、忘れられようはずが無い。
テンガン山の山頂、槍の柱に現れた白竜。空間を司る、神の一柱――パルキア。
『神殿にたどり着く前に奴に見つかるとは何たる失態だ……!
 魂無き神体のみとはいえ、無事に逃れることすら容易ではないぞ』


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