第39章


[11] 


「ふう……」
 誰もいなくなった部屋で一匹、ミミロップは静かに物思いにふける。
ピカチュウを信じるとは言い切ったものの、その安否が心配なことには変わりは無い。
 危ない目にあっていなければいいけれど――。
 ミミロップはそっと手を組み、いるかどうかもわからない神に無事を祈った。

 ※

 ――最悪の状況だ。
 巻き藁の如く次々と切り倒されていく柱の瓦礫と、背後から放たれているであろう、目に見えず音にも聞こえない刃の隙間を、俺は死に物狂いで掻い潜りながら走っていた。
 どうしてこうなった。死ぬ間際の走馬灯のように思い返される、窮地に陥るまでの過程。

 サクラビスを蔓で縛り上げた後、暴れ様に悪戦苦闘しながらもどうにか手綱と鞭代わりの加減した電気でもって乗りこなし、追っ手の魚達を俺はどうにか振り切った。
神殿までの良い移動手段が確保出来たと気を良くしたのも束の間、サクラビスは徐々に速度と高度を落としていき、やがて幾ら鞭を振るおうとも泳がなくなってしまう。
もう胸ビレを少し動かすことさえやっと、といった様子だ。
これ以上は無駄と判断し、苦々しく思いながらも俺はサクラビスの背を降りた。そのまま乗り捨てていけば良かったものを、疲弊しきった姿に敵ながら哀れさを感じ、せめて嘴に巻きついている蔓だけは外していってやろうと思い立つ。
『いらぬ情けは身を滅ぼす』
その時のギラティナの苦言を素直に聞いておくべきだったと、今になって深く後悔している。



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