第38章


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イノムーの分厚い毛皮にも通るあの爪で本気で引き裂かれれば、ロゼリアのか細い体など一溜まりもない。
 このままじゃまずいと、ロゼリアは体にぐっと力を込める。固そうな壁に叩きつけられた筈なのに不思議と殆ど手傷を負ってはいないようだった。蹴られた場所はさすがにじんじんと痛むけれど、我慢できない程ではない。
 ――まだ戦える。
 針を地に突き立てて起き上がり、ロゼリアは応戦の構えを取った。

 ニューラは低く唸り声を上げながら、向けられた針先を凝視する。口先では馬鹿にしきっていても、野性的な本能が針が持つ毒に危険を告げ易々と踏み込めないでいた。塵の一つさえ見逃さぬ程に凝らした目は、針先がほんの僅かに動くのを逃さず捉える。即座に放たれた、本来であれば避けがたい程の鋭利な刺突。しかし、何か仕掛けてくることを先読みしていたニューラは難なく見切っていなした。と同時に反撃を振るう。
 刃がその身にかかるすれすれの所で、ロゼリアは咄嗟に伸ばしたもう片方の針で爪を受けた。
「うう――ッ!」
それでも大きな体格差のある一撃は止めきれる筈もなく、針はみしりと悲鳴を上げ、ロゼリアは再び体ごと大きく後方に飛ばされる。

 ――実力以前に、身体の出来からして違いすぎる。やっぱり僕のやり方じゃ勝てないのか……?
 どうにかうまく着地しながらも、その心は折れかけていた。すぐにでもまたニューラは向かってきそうだ。ロゼリアを睨んで舌なめずりしながら、爪を研ぎ合わせている。苦し紛れにロゼリアは葉を何枚もカッターのようにして投げ放った。ニューラはまたしても素早くかわしていき、避けきれなかった分には凍える息を吹き掛けて容易く萎れさせてしまった。

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