第38章


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 長い螺旋状のスロープを駆け降りながら、ロゼリアは吹き抜けから下の様子を窺った。騒がしい階下の広間ではニューラ達が氷でできた大きな長テーブルを囲い、これまた氷製の皿に盛り付けられた食べ物と、どこぞからくすねてきた酒をがっついている。

 この中にあの石を盗ったニューラもいるはずだ。ロゼリアは途中で足を止め、少し上の方から広間を見渡してその姿を探す。性別はオス。片方だけ赤い耳の長さで容易く判別できる。そして、他のニューラ達と比べても、
より意地悪そうな目付きと顔付きをしていたような気がする――。
しかし、ロゼリアが幾らその特徴を頭の中で思い返そうとも、こうもニューラ達が沢山集まっている状況では、砂糖の中に紛れた塩の一粒を見つけるようなもの。早々簡単に見つけられるはずもなく、ずっと探し続けている内に、螺旋通路をぐるぐる降りてきた事も相まってか、ロゼリアは何だか目までくらくらと回りそうになってくる。
 これでは埒が明かないと、ロゼリアは広間に降りて直接ニューラ達に居場所を聞き込んで回ることにした。まともに取り合ってくれないかもしれないけれど、ここで躊躇しているようでは石盗りの奴と話をするなんて尚更できっこない。

「あの、少しお聞きしたいことが……」
 勇気を出して、ロゼリアはテーブルの隅にいる手近な一匹に声をかけた。
「あん?」
 酒に酔った様子のニューラは上機嫌そうに声の方へ振り向く。どうしたんだよ、と傍にいた数匹のニューラも声に気付き、ヘラヘラと笑い合いながらそちらへと目を向けた。だが、声の主がロゼリアだとわかった途端、ニューラ達から笑みは消える。そして顔を見合わせ、ロゼリアそっちのけで何やらひそひそと言葉を交わし始めた。

 やっぱりダメか……。
 ロゼリアは少し落胆し、諦めて次に行こうとする。その目の前に、不意に差し出される黒い手とその上の木の実。びっくりしてロゼリアは手の元を見上げる。
「……オメーの分さ。さっさと受け取れ」
 複雑そうな表情をしてそう言うと、ニューラはロゼリアに木の実を押しつけるように渡した。

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