第38章


[03] 


 尻餅をつき動けない自分の喉元に向けられた、無慈悲で冷たい光を反射する鋭い切っ先。恐怖と威圧感に伝う冷汗。深く刻み込まれていた忌まわしい自分のコピーとの戦いの記憶が呼び起こされ、ロゼリアの脳裏にフラッシュバックする。マニューラの顔に、コピーロゼリアの冷淡な嘲笑が被って見えた。
『どんな手を使おうと、僕の足元にも及ばない』
 脳内で思い起こされ、繰り返し響く仇敵の侮蔑。それを掻き消すようにロゼリアは叫び声を上げ、針を伸ばした勢いで地から弾けるように立ち上がってマニューラに突きかかる。

「おおっと。いいぜ、その調子だ。がんがん突いてこいよ。どんな方法でもいーから一発でも当ててみな」
 余裕綽々といった様子でマニューラはひょいと体を針から逸らして言った。休みなく次々に繰り出される刺突も、まるで軽業師のような華麗で軽やかな身のこなしで、口笛混じりに避けていく。
 屈辱感と焦りが募り、ロゼリアの太刀筋はどんどん乱れていった。
「ヒャハ! どーした、ロゼちゃん。コイキングの体当たりの方がまだ気合いが入ってるぜ」
「――ッ、このォ!」
 煽りに乗せられ、後先も考えずロゼリアは思い切り横薙ぎを振るう。
それを狙いすましたように鉤爪が反った内側で針の腹を引っ掛け、強引にロゼリアを引き倒した。

「……ま、こんなもんか。よいせっと」
 うつ伏せに倒れるロゼリアの背を、マニューラはとんと軽く腰を下ろして押さえ付ける。
「むぎゅ! ちょっと、つ、潰れちゃいます! 重い重い重いー!」
 じたばたと叫ぶロゼリアの頭をマニューラは小突く。
「重い重いうるせーよ。オメーがチビすぎるのがワリィんだ」
「うぐう……」
 抵抗は無駄と諦め、尻に敷かれたままロゼリアはおとなしくなった。
「バカ正直に真っすぐすぎるぜ、オメーは。もっと何つーか、はめを外してみな」

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