第38章


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「おー、良いところに来た。助けてくれよ、ひでーんだぜコイツ」
 わざとらしく泣き付くマニューラに、『はあ』とニューラはため息をついた。
「アンタも大変ね」
 独り言のようにメスニューラはロゼリアに言う。それは極そっけない言い方とはいえ、ロゼリアをひどく驚かせた。今までロゼリアが話し掛けようとしてもずっと無視を決め込んでいたニューラの一匹が、自分の方から仲間に接するように声を掛けてきたのだ。
「あ、は、はい」
 思いもよらぬ事に、ロゼリアはたどたどしくなって返事をする。
「ふ、ふん。ま、ちょっとは感謝してる。アンタにじゃなくて、アンタが持ってた傷薬にだけど」
メスニューラはばつが悪そうに鼻を鳴らして、言った。
「あ、ありがとうございます……」
 そんなロゼリアとメスニューラのやり取りを、マニューラはにやにやとして黙って眺めていた。メスニューラは視線に気付き、一層決まりが悪そうに顔をしかめる。
「さ、あたしと無駄話している暇があったら、早くドジリーダーにたっぷりと傷薬を擦り込んであげてくれない?」
「な、てめー!裏切りやがったな!」
 ニューラの言葉に慌てた様子でマニューラが叫ぶ。いい気味だと、くすくすとニューラは笑った。
「そうですねー。ニューラさんからも、マニューラさんに男らしく我慢するように言ってください」
 ロゼリアも面白おかしげに言った。
「え?“男らしく”?」
 ニューラは不思議そうに首を傾げる。え、とロゼリアもつられて同じように首を傾げた。
「あー、そっか。気付いてないんだ。ま、こんな性格と振る舞いだし、他種族じゃ余計に区別なんてできないわね」
 ニューラは横目でマニューラを見ながら言う。
「別に隠しているって程でも事でも無いんだけれど、マニューラは――」
 そして、ロゼリアにそっと耳打ちした。
「え?えええええー!?」
 伝えられた事実に、ロゼリアは天地が引っ繰り返ったような衝撃に襲われ、堪らず上げた絶叫のごとき驚きの声が洞窟全体を揺らしそうな程に響き渡る。
 けっ、と舌打ち、マニューラはばさばさとたてがみを撫でた。

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