第38章


[23] 


 マニューラは顔をしかめ、ロゼリアの額を爪でぱちんと弾いて自分の上から退かした。そして、ゆっくり起き上がって座り、ふうっと大きく息を吐く。周りのニューラ達も、拍子抜けしたように安堵の声を上げた。
「あー、さすがに今日はちょっとハードだったなー……。挙句に寝込みに何かされそーになるしよ」
 気だるくマニューラは呟き、不機嫌そうにロゼリアを睨んだ。ニューラ達も口々にブーイングし、それを囃し立てる。
「ご、誤解です! 僕はただ息を確認しようと思っただけで」
 顔色をぐるぐると変え、ロゼリアは慌てふためきながら弁明する。マニューラはその様子を見て軽く吹き出し、冗談だよ、と笑った。ニューラ達もそれに続く。ロゼリアはほっと息をつく――暇もなく、
「それよりもその体! 起き上がって大丈夫なんですか!?」
半ば叫ぶように尋ねた。
 マニューラは首を傾げ、自分の体に付いた赤黒い染みを見る。そして、また軽く笑った。
「ああ、これか。バーカ、これはオレのじゃねーよ。左腕をちょっと切っただけなのに、体の右側がこんなに染まりゃしねー」
 あ、と再びロゼリアから調子の外れた声が上がった。
「ま、左側もこんなにベトベトになっちまわねー内に、早く帰って腕の傷は何とかしねーとな。
――よし、テメーら、撤収だ! お土産は忘れんなよ、ヒャハハ」
 そう言って、ふらふらと立ち上がろうとするマニューラを、すぐにニューラ達が数匹駆け付けてきて担ぎ上げる。
肩を貸すことさえできない自分に、ロゼリアはひどく無力感を覚えた。
「帰ったらオメーが診るんだろ? 精々頼んだぜ、名医さんよ」
 マニューラは立ち尽くしているロゼリアに、肩越しに声をかける。
「は、はい!」
 慌てて顔を上げ、ロゼリアはそれに答えた。



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