第38章


[19] 


 ニューラ達は四、五匹になってイノムーの一頭一頭に一斉に飛び掛かって群がっていく。イノムー達は振り落とそうと暴れるが、抵抗も虚しくあっという間に数の暴力に呑まれていった。
 ロゼリアはぼうっとして、ニューラ達の狩りの光景をどこか別世界の出来事のように遠く見つめた。頭の中では先程の手応えと感触を何度も思い起こし、反芻している。あんな大きなイノムーに通用する一撃が放てたなんて、今でもあまり実感できないでいた。
「赤点ぎりぎりってとこだな。ま、チビにしちゃーよくやったよ」
 そう言って、マニューラは汗に湿る額を拭い、ふう、と一息ついた。
「あ、ありがとうございます」
 何とも歯切れの悪い思いをしながらも、これがマニューラにとって精一杯の褒め言葉なのだろうとロゼリアは理解しておくことにした。どうにかあの絶望的な状況を切り抜け、マニューラさんの助けになることが出来たんだ。ロゼリアにもうっすらと自身が芽生えようとしていた。
 そんな時、
「マニューラ!わりぃ、そいつ止めてくれ!」
ニューラの一匹が焦るような叫び声を上げる。マニューラ達がそちらへ目をやると、一頭のイノムーが岩を巻き上げ、止めようとするニューラを蹴散らしながら向ってきていた。よく見ればイノムー額の辺りには毒針が深々と突き刺さっている。そしてその全身はうっすらと淡い光に包まれていた。
 ロゼリアは大きく目を見張る。忘れるはずもない、自分が突き刺したイノムーだった。仕留めきれなかったこと以上にロゼリアを驚かせたのは、イノムー包む見覚えがある光の粒達。
 ――あれは、進化の光だ!
「あーあー……追試だな。時々いるんだよ、追い込まれて目覚める奴が。あんな状態じゃそれ程長くは持たねーけど」
 マニューラはロゼリアの体をそっと放す。
「あれが最後だ、もう群れに踏み潰される心配はねーだろ。オメーは後ろで好きにしてな。オレが直々に文句無しの合格点ってやつを見せてやるぜ、ヒャハハ!」

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