第38章


[18] 


 はい、とロゼリアは明瞭な返事を返す。そして確認するように自らのか細い毒針に再度目を向けた。
 人間のおとぎ話に出てくる竜退治の騎士が持つような、誰もが憧れる立派な伝説の剣みたいに、豪快に力強く真っ二つに切り伏せるような真似は確かにできないかもしれない。だけど――。
 ロゼリアは視線をそっと切っ先へと滑らせる。
 切れ味の鋭さは劣っても、先の鋭さは勝てずとも負けないはず。それならばやることは一つ。やれる事をやれる所まで、貫き通す。

 針先の向こうに見えるイノムーの姿が、ぐんぐん近づいて大きくなっていく。ただ一つの事を達するために一杯になったロゼリアの頭に、怯えや迷いが入り込む余地は無い。
 二度目の激突、同じようにマニューラはひらりと飛び上がった。そして今度は群れの隙間ではなく、イノムーの頭上すれすれへと舞い上がる。
 ――今だ!
 ロゼリアは腕を思い切りイノムーに向かって突き出す。ただ一つへの覚悟と信念は、ただの毒針だったものを強烈な技へと――毒突きへと昇華させた。極細の刺突は剛毛の鎧を悠々と掻い潜り、鋭い一撃を直に突き立てる。

 苦悶の咆哮を上げ、イノムーは大きく仰け反った。ほぼ反射的にロゼリアは突き立ったままの針を花から撃ち出す。更に深々と抉ると同時に、自分を掴むマニューラの動きを阻害しないようにしての行動だった。
 やるじゃねーか、とマニューラは感心して笑い、イノムーの頭上からすんなりと離脱する。
 その直後、仰け反ったイノムーに後続が次々と追突し、その陣形が大きく崩れた。パニックに駆られたイノムー達は集団を忘れ、散り散りに逃げ惑いだす。
「待たせたなテメーら!鬼ごっこの大詰めだ、派手にやろーぜ!」
 マニューラの合図にニューラ達は歓声を上げ、ぎらりと目の色を変えた。
「レッツ、ハンティング!ヒャハー!」

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