第38章


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イノムー達は牙を突き出し数列になって並走し、ウリムーはその隙間を埋めるようにしてがっちりと密集している。雪を豪快に巻き上げ迫る様はまさに茶色の怒濤。近づけば近づく程に、絶望的な迫力に圧倒されてしまいそうになる。そんな威圧感にあてられながらまったく怖気付くことなく、マニューラは疾風さながらに空気を切り裂き駆けた。
 ロゼリアは恐れに背けそうになる顔をしかと真正面に向け、顔に鋭く当たる極寒の風に閉じそうになる眼をぐっと堪えて開き続けた。失敗は考えない。僕とマニューラさんの二匹ならどんな状況でも絶対に負けない。
そう自分に言い聞かせると心は冷静に静まり、と同時に仄かに不思議な熱い感情が込み上げた。

 そして遂に訪れた激突の直前。
「任せる。オメーなりにできることを、やれるとこまでやるんだな」
「頑張ります!」
 マニューラは雪を蹴って勢いよく跳躍し、イノムーの密集陣形に僅かに空いた隙間に向かって飛び込む。ロゼリアは目が回りそうになるのを耐えながら、すれ違いざまにイノムーの一頭へと針を横薙ぎに振りぬいた。十分な勢いがついた強烈な一撃。確かな手応えをロゼリアは感じる――が、斬撃は途中で剛毛に阻まれて止まり、そのまま食い込んで折れてしまった。
「チッ――!」
 マニューラは崩れかけた体勢を整えて着地し、間髪置かずに飛び上がって二列目のイノムーの頭を蹴りつけ、最後列の三列目を飛び越えた。


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