第38章


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「ふん。とにかく、今は生き残ることを考えねーとな。今、オレ達ゃ割とピンチって奴なんだぜ。あのウスノロ共は目も頭も悪いが、鼻と耳だけはいいんだ。血の臭いを嗅ぎつけてオレを狙ってくる。お前の匂いもオレ達の仲間と思って狙われるだろうな、弱ぇーし下手すりゃ真っ先に」
 イノムーの群れは弱った個体を狙ってニューラ達の包囲網を突破しようと、毛並みを逆立てて一斉にマニューラ達に向かってきていた。更に加えて、右腕はロゼリアを抱え、左腕は怪我を負い、最大の攻撃手段をマニューラは失っている。
「ぞくぞくするなぁ。こんなヤバいのは久しぶりだぜ。どうすっかねえ、ヒャハハ」
 そんな危機にありながら、マニューラは楽しむように笑った。
 逃げる気も負ける気も微塵も無いんだ、とロゼリアは悟る。怪我をした左腕を無理に使ってでもマニューラは戦おうとするだろう。そんなことをすれば傷口が開き、もっと広がってしまうかもしれない。
「僕が戦います」
「はあ?確かにオメーにゃ初めは後で適当にウリムーの相手でもさせようと思っていたがよ。いくらなんでもまだイノムーの群れの相手なんて無理だぜ。何をする暇もなく潰されされちまうのがオチだ」
「なら、あなたの右腕の代わりとしてでも戦わせてください」
 必死にロゼリアは食い下がった。今度は僕がマニューラさんを助ける番だ。助けられるしかできなかった自分を変えるんだ、と。
「右腕、ね。へっ、いらねーよ。左腕だけでウスノロなんざどうにかしてやるから心配すんな」
「左腕は使っちゃダメです!そんな凍らせただけじゃあ、またすぐに傷が開いてしまいます。
 後で僕がしっかり診ますから、今だけは……お願いします!」
 ロゼリアは抱えられた体勢ながらもぐっと顔を見上げ、まっすぐにマニューラの目を見つめた。
「……わかった。思い通りにさせてやるよ。せいぜい振り落とされたりすんなよな。失敗しても恨むなよ」
「はい!」
 ロゼリアは針をしっかりと伸ばし、ふらつかぬよう気合いを入れて構える。
「……正直なとこ、ちょっと助かった」
 そっとマニューラは呟いた。
「え?」
「何でもねーよ、行くぞ!」
 マニューラはロゼリアをしっかりと掴んでイノムーの群れに振り向いた。


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