第38章


[14] 


「ま、マニューラさん、その怪我……!」
 喫驚して、ロゼリアは声を上げる。
「さっきあのウスノロ共の牙にちょこっと引っ掛けただけだ。どうってことねーよ」
 何でもない風にマニューラは言う。だが、その顔には薄らと痛みによる脂汗が滲んでいた。
 ――僕のせいだ!
 手を煩わせた上に、怪我までさせてしまった。最悪の足手纏いだとロゼリアは益々自分を責める。
「ごめんなさい、ごめんなさい!僕が、僕みたいな足手纏いが――!」
「だー、うるせえ!どうってことねーつってんだろ!」
 マニューラはそう叫んでロゼリアの言葉を遮ると、自分の傷口に息を吹き掛けて凍らせ、強引に止血した。
「ったく、一々一々うじうじうじうじするんじゃねーよ!オメーはあのネズミ共と戦いと野望に満ちた、危機一杯の楽しい旅に今まで生き残ってきたんだろが。少しゃ自信もったらどーだってんだ」
「で、でもそれは僕の力では無く――」
「本当のグズ野郎だったら、そんなクソッタレな旅から逃げずに食い付いていける根性はねえ。怖ぇ相手にテメーから立ち向かう姿勢を一瞬だけでも見せる気概さえねえ。このオレ様が買ってんだ、誰にも文句は言わせねえ。勿論オメーにもな」
 はっとしてロゼリアは弱音を飲み込む。蹴り付けられるような乱暴な言葉だったが、心は大きく揺さ振られた。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.