第38章


[13] 


 助かったんだ。右腕の中で揺られながら、ロゼリアの心を安堵が包んだ。が、すぐに失意の感情が沸き上がってきて、それを覆す。
 ――いや、違う。『助けられた』んだ、また。
 期待に応えるつもりだったというのに、またマニューラの手を煩わせてしまった。
「ありがとうございます。すみません、僕はまた……」
 震える声でロゼリアは礼を呟いた。
 ピカチュウ達との旅の始まりも、助けられた事がきっかけであったと、ロゼリアは思い返す。ヤミカラス達に因縁をつけられて怯え震えていた僕を、ピカチュウさんはまるでヒーローのように現われて――打算的な理由とはいえ――救ってくれたんだ。恩に報いようとお供を続けては来たけれど、果たして役に立っていたのだろうか。思えば、その旅中でも自分は助けられてばかりだったような気がしてくる。危険が迫り急いで逃げ延びなければ行けない時は、足の遅い自分はいつもこんな風にミミロップさんに抱えてもらわなければいけなかったっけ。誰かのフォローが無ければ何一つ満足にできない。あのキュウコンの言っていた通り、足手纏いと切り捨てられても仕方がないのかもしれない。
「おい、何をぼーっとしてんだよ」
「え、あ――ごめんなさい!」
 現実に引き戻され、ロゼリアは慌てて顔を見上げて取り繕った。
「寝呆けてる暇はねーぞ。お楽しみはまだこれから――」
 言葉の途中で、不意にマニューラの表情が痛みを堪えるように一瞬歪んだ。自分を抱えてくれている腕とは反対側から、ポタポタと雪面に滴れて点々と続いている赤い染みにロゼリアは気付く。不審に思ってマニューラの体をよくよく見てみると、左腕の肩から肘辺りまでの毛並みが赤黒く湿っていた。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.