第38章


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 影の正体は数匹のニューラ達だと、ロゼリアは茶色の群れの合間から垣間見て確認した。全身を茶色の剛毛で分厚く覆われた大小様々な生物達は、彼等に追い立てられて一心不乱に逃げているようだ。
 あの毛むくじゃら達がイノムーとウリムーなのか。出発前に聞かされていた獲物の特徴を頭の中で照らし合わせ、ロゼリアは判断する。
 見当外れの方向へ進まされていたはずが、偶々ニューラ達の獲物を追うルートに交わっていたようだ。本来であれば、この偶然をロゼリアは神に感謝していたところであろう。猛然と走るイノムーの群れが、真っすぐ自分の方へと向かってきていなければ。

「うわあぁ!」
 たまらず悲鳴を上げ、ロゼリアは背中を向けて逃げ出した。あんな雪崩のごとく暴走する群れに巻き込まれたが最期、ロゼリアなどあっという間に押し花のようにぺちゃんこにされてしまう。しかし、やはりロゼリアの足では逃げ切れるはずも無く、イノムーの群れとの距離は徐々に徐々に詰まっていった。
 ニューラ達は誰も僕が居ることに気付いていないのだろうか。それともこのまま見殺しにするつもりなのか。そんな考えが頭に過る中、ロゼリアは焦りと疲労に足をもつれさせ、とうとう転んでしまう。振り返ると、すぐそこにまで牙を振り上げて迫ってきている、イノムーの巨体。
 ――もうダメだ。
 あわや踏み潰されようとしたその刹那。視界を掠める一陣の漆黒。ロゼリアの体はひょいと持ち上げられ、ぐんぐんとイノムーを引き離していく。

「ヒャハ、ギリギリセーフ!何だオメー、まさか先回りしてやがったのかよ?へへ、やるじゃねーか」
 ロゼリアを横に抱えて駆けながら、マニューラはにんまりと笑った。

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