第37章


[06] 



 修業の妨げにならぬよう、なるべく仲間達のことは思い出さないようにしていたが、
一度考えてしまうと寂しさが溢れ返ってくる。
もう帰ってしまおうか。心細さが最高潮に達し、顔から伝い落ちた一滴の水が水面に波紋を作る。
日の光を反射し、波紋は幾つもの銀色の輪となって揺らめいた。じっとその様子を眺めていると、
ミミロップには一瞬それがざわめく九本の銀色の尾になって見えた。
『所詮、足手纏いの限界などその程度』
脳裏に涼しげな目で嘲笑う顔が浮かぶ。
 ミミロップは波紋を掻き消すように水面に両手を突っ込み、水をすくい上げてもう一度ばしゃばしゃと顔を洗い流した。
 ――きっとみんなも、あんな酷いこと言われたまま何もしないで過ごしているわけがない。
 ルカリオの所へ戻ろう。ミミロップは奮い立つ。修業に邪魔な感情は胸の奥へと強引に押し込んだ。
 戻る前に濡れた毛並みを乾かさないと。そう思い立ち、ミミロップは炎を灯そうといつものように手に気を集中させる。
しかし一向に炎は点かなかった。ミミロップは首を傾げる。
手が濡れているのがいけないんだろうかとも思ったが、
今まで多少手が濡れていても意識するまでもなく問題なく使えていたし、そんなことはまずありえない。
念のため一応、と手の水気を払ってからミミロップは何度も挑戦してみる。それでもやはり炎は出せなかった。
「なんで……?」
 愕然とし、思わず声が漏れた。当たり前にできていたことが突然できなくなってしまっていた。



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