第37章


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避けようとするどころか、ルカリオは腕を大きく広げ、真っ向から穴の前に立ちはだかる姿勢をみせていた。
暴走する機関車の前に身を投げ出すような、自殺にも等しい愚行。
もう勝負を諦め、自棄になっての行動だとハガネールは思った。だが、すぐにそれは間違いだと気付く。
ルカリオの全身から漲るのは、敗色など微塵も感じさせない一流の気迫。
恐れを知らぬ不屈の心を湛えた瞳に射竦められ、ハガネールは思わず突進の速度を緩めた。
 が、既に止まれるはずもなく。遂に激突の瞬間が訪れる。ルカリオの身体にかかる計り知れないほどの衝撃。
全身の筋肉と骨がみしみしと軋み、食い縛った歯と歯の間から苦悶の唸り声が漏れる。
それでも決してルカリオは弾き飛ばされる事なく、ハガネールの突き出た顎を両手でしっかりと捉え
、地が抉れるほどに足を踏張って耐えていた。

 あまりの信じられない光景に、ハガネールは目を見開いて驚愕する。
直前にブレーキをかけたとはいえ、自分よりずっと小さい相手に、それも真正面から突進を受け止められてしまったのだ。
 ずるずると押されながらもルカリオは上体を仰け反らせ、ハガネールの鼻先に思い切り頭突きを見舞った。
出し抜けな強烈な一撃に、ハガネールは一瞬意識が飛んだようになり、体の力がだらりと抜ける。
その虚を見逃さず、ルカリオはハガネールの体を、全身の力を込めて引っ張った。
残った突進の勢いを余さず利用され、ハガネールは一本釣りのように穴から引き摺りだされる。
そしてそのまま放られて、ハガネールは轟音と共に岩壁に叩きつけられた。
同時に、ルカリオもその場にがくりと倒れこむ。
積もったダメージ、無理な筋肉の強化と酷使の反動により、その体には限界が近づいていた。
 だが、それでも尚、ルカリオは歯を食い縛り、立ち上がった。ハガネールもゆらりと顔を上げ、体勢を起こそうとしている。
互いに消耗は極限。次で勝負は決まる。二匹は確信していた。
ハガネールは大口を開け、渾身の破壊エネルギーを喉に充填する。
それに応えるようにルカリオも両の手首を向き合わせて、全身全霊の波導を集中させる。

 双方、十分に力が高まり、いざ必殺技が放たれようとしていたその時――
「ちょ、ちょっと待ったー!」
慌てて駆け込んできた様子の声が止めた。

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