第37章


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 ルカリオに龍の息吹を容易く振り払われ、正面から撃ち合っては分が悪いと見ると、ハガネールはその巨体からは信じられないスピードで壁から壁、天井から床へと穴を掘り、縦横無尽に飛び出しては襲い掛かるという戦法を取り始める。
高速で動き回るという極めて単純な行動だが、それは鋼の巨躯を圧倒的な破壊力を持つ凶器へと変えた。

 ルカリオはその軌道を目で見切り続け、紙一重で直撃は免れていたが、おろし金のように荒いハガネールの体表は、軽くかすっただけでもルカリオの体に容赦なく傷を負わせていく。
波導を探知しようにも、ハガネールの波導は周りの光の石が発する強い波導により邪魔をされ、どの穴から襲ってくるのか正確に読む事ができない。突進を避ける間に潜られては反撃もできず、為されるがままの、まさに満身創痍。
しかし、そんな危機的状況にありながら、ルカリオの瞳に諦めの色はまったく浮かんではいない。
その目は勝利を見据えているかのように落ち着き払いっていた。
ぎりぎりの戦いに身を置くことをどこか楽しんでいる風にさえも見えた。

 ハガネールの攻撃の勢いが衰えたわけでもないというのに、ルカリオが受ける傷は徐々に確実に軽くなっていた。
深く息を吸い込み、全身に力を込める度、その毛並みの下の筋肉がびきびきと音を立て、強く厚くなっているのだ。
それは、肉体を瞬時に強化し、一時的だが絶大な力を得る技。ビルドアップの効果だった。

 何度目かもわからないハガネールの突進が迫る。だが、もうルカリオはそれを避けようとはしなかった。

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