第36章


[08] 





 これが砂漠というものか。今まで生きてきて話には聞いたことがあっても直接経験した事の無い景色に感嘆を覚え、
半ば呆然となりながら暫し海岸とはまた違った砂の感触を楽しみながら歩んだ。
 アブソルもこのような気持ちで旅をしていたはず――早く助けてやらねばな。
 我に返り、気を引き締めなおす。とにかく、こんななれない環境を長距離歩くのは難儀すぎる。
早々に高原に戻りたいところだ。元来た方向へ向かおうと踵を返すと、
ゲートを挟んで遠方から数匹の魚がこちらへ迫っていることに気付く。
幸い、まだこちらには気付いていないようだ。だがゲートまで戻っていては見つかってしまうだろう。
しばらくはこのまま進むしかない。余計な好奇心が仇となってしまった。

 乾ききった細かい砂地を歩き続けるのは想像以上に体力を奪っていく。
そして定期的に風に乗って目と口に襲い来る砂が集中力を鈍らせ、気力を奪った。
 何度目かも分からない砂嵐の襲撃から目を守りながら進んでいると、急に片足が砂に沈み込んだ。
そのまま両足を取られてしまい、ずるずると下へと体が滑っていく。
見れば俺はすり鉢状となった深い窪みに滑り落ちていっている様で、止まろうと藻掻いても掴む所が無く、
むしろ藻掻けば藻掻く程に砂は流れ落ちて底へ底へと運ばれていく。
 ――これは、非常に嫌な予感がする。アリアドスというポケモンが獲物を捕らえる際に張る糸の罠は、
かかったが最期、獲物が抵抗すればする程にその身に糸が絡まり、窮地に陥れるのだと聞いたことがある。これもその類ではなかろうか。
 その時、底の砂が蠢き、何かが姿を現した。それはギザギザの亀裂が入った、大きな卵のような丸い物体だ。
その物体は表面に開いた目らしき黒い穴の奥で光る十字の瞳で滑り落ちてくる俺を確認すると、
嬉しそうに大きく亀裂を開き、ガチガチと噛み鳴らし始めた。
嫌な予感は的中していた――!



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