第36章


[07] 




 ※

 平たい石の上で座禅を組み、ミミロップは深く目を閉じる。
だが、その集中力はすぐに途切れて煩悩まみれの妄想に耽り、つい口元が緩む。
「喝ッ!」
 その一声と共にビー玉程の気弾が放たれ、ミミロップの額でバチンと音を立てて弾けた。
「いたーッ!?」
 いささか大げさな声を上げてミミロップは額を押さえ、恨めしげに低く唸ってルカリオを見やる。
「ええい、そこまで痛がる程に強くやってはいないわ!
 まったく成長がみられない。本当にやる気はあるのか、やる気は! ……うう、頭が痛い」
 ルカリオの指導を受け始めてから数日経った。しかし、ミミロップに進歩は見られず、
寧ろ昔教えていた頃に比べて更に退化した腑抜けた態度にルカリオは随分と頭と胃を痛めていた。
 手合せの後もルカリオの希望でミミロップの監視役として残ったチャーレムも、呆れた顔でその様子を見守っている。

「ありますってー! それに、昔はできなかったこんなこともできるようになったじゃないですか。ほら、ぴゅー」
 頭を抱えるルカリオに、ミミロップは指先から水鉄砲のように弱々しい青い波動を出してみせる。
ルカリオは苛立たしげに片手でそれを振り払った。
「そんな小火も消せないような水の波動でなんになる!」
 再び喝を入れられ、ミミロップは大きく仰け反って倒れた。
そして泣きじゃくりながら――当然ながら泣き真似だが――起き上がる。
「だってこれ昔から退屈で苦手なんですもん。もっとズババーッと派手で楽に強くなる方法ないんですかー」
「無い。そんな方法があれば自分でやっているわ、愚か者めが。鈍りきって基礎の基礎まで満足に出来なくなっているお前が悪い。
波導は言わば気、心の力。清流のごとく心身を澄ませ、地道に鍛練を積むものだと何度も言っているだろう。
さあ、やり直せ! お前のような不肖の弟子を世に出しては、自分だけにでなく先祖の顔にまで泥を塗ることになる」
「ひーん……」
 ピカチュウの道のりと同じように、こちらも長く険しい――。





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